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名護・自然観察日記

名護で出会った生きものを中心に紹介します。

書籍 ジュゴンとマナティー 海牛類の生態と保全

ジュゴンとマナティー1

「ジュゴンとマナティー 海牛類の生態と保全」が東京大学出版会から9月15日に刊行されました。
この本は日本で初めてのジュゴンとマナティーの専門書です。

ヘレン・マーシュ 、トーマス・J.オッシー 、ジョン・E.レイノルズⅢ 著   粕谷俊雄 訳
ISBN978-4-13-060242-6  発売日:2021年09月17日  判型:菊判  ページ数:528頁
発行 東京大学出版会
税込12,100円

主要目次
まえがき(ヘレン・マーシュ,トーマス・J.オッシー,ジョン・E.レイノルズIII)
日本語版へのまえがき(ヘレン・マーシュ)
第1章 海牛類とは
第2章 ステラーカイギュウ――巨大な海牛類の生き残り その発見・生物学・狩猟
第3章 海牛類の類縁関係・起源・多様化
第4章 摂餌の生物学
第5章 行動と生息地の利用
第6章 生活史・繁殖・個体群動態
第7章 保全上の脅威
第8章 保全の現状――現生海牛類保全の現状判定の基準・手法・判定結果
第9章 保全を目指して
第10章 沖縄のジュゴン(粕谷俊雄・細川太郎)
訳者あとがき

最後の章は粕谷先生が中心となり、私細川も執筆作業に携わりました。
なお、海想の店舗およびウェブショップでも販売しておりますので、お買い求めいただければ幸いです。
(2021年9月30日まで送料無料です。)

海想ウェブショップ




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  1. 2021/09/18(土) 16:45:08|
  2. ジュゴンの海
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ジュゴン・死亡個体の解剖

190319_22.jpg
                                      2019年3月19日 今帰仁漁協にて

3月18日に今帰仁村運天の護岸付近に漂着したジュゴンの解剖が、7月17日に行われ、
その解剖結果が7月29日に発表された。

なお今回の解剖は、環境省沖縄奄美自然環境事務所、沖縄県、今帰仁村の三者が実施主体となり準備が進められていた。

発表内容は以下の通りである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーここからーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

                ジュゴン死亡個体の解剖結果について(報告)
                                            令和元年7月29日(月)
            (環境省沖縄奄美自然環境事務所・沖縄県・今帰仁村同時発表)   

1.解剖日
 2019年7月17日(水)

2.解剖場所
 一般財団法人 沖縄美ら島財団施設内

3.解剖結果概要
 美ら島財団、鳥羽水族館、京都大学所属の者、国立科学博物館の協力のもと、死因究明を目的に実施した解剖の結果、
「外因死、すなわちオグロオトメエイの尾棘(びきょく)腹腔内刺入(ふくくうないしにゅう)によって生じた
 腸管の全層性裂傷(ぜんそうせいれっしょう)を起因とする腹腔内の状態悪化による死亡がもっとも考えやすい。」
 と判断された。
 なお、所見の詳細や想定される死因別の評価については検案書のとおりである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

                          検案書
                                              令和元年7月26日

剖検番号 OCF 2019-01
剖検日時 2019/7/17 9:50-15:00
剖検者  一般財団法人沖縄美ら島財団獣医師3名、鳥羽水族館獣医師2名、京都大学准教授1名、
     国立科学博物館獣医師1名
種類   ジュゴン
性別   メス
年齢   不明
体長   290cm
体重   480.3Kg

剖検所見 
1)腹腔内への腸管内容物の漏出
  腹膜全域を被覆するように、腸管内容物の付着が観察された。

2)腸管壁の裂創
  小腸に全層性の裂傷を一箇所認めた。位置・形状・大きさから3)に挙げる異物に因る創として矛盾しない。
  腸管内に残存する内容物が、裂傷部前後では存在しなかった。
  これらのことから、1)に挙げた腹膜を被覆する付着物は、3)に挙げる異物(オグロオトメエイの棘)に因る
  裂創から腸管内容物が漏れ出したものと考えられる。

3)左腹壁内側の異物(多数の鋸歯状の突起を有する、長さ約23cmのオグロオトメエイの尾棘)
  左腹壁の筋肉に到達した異物が認められた。
  右体側表面から右腹壁に貫通する、陳旧性とは考えにくい瘻孔が観察された。
  棘はここから刺入し、腸の蠕動運動等に連動し、腹腔内を直線距離にして約60cm移動し、
  左腹壁の筋肉に到達したと考えられる。
  2)に挙げた小腸の裂創はその間に形成されたものと考えられる。
  棘が蠕動運動等により右体側から左腹壁の筋肉まで移動したと考えられることから、
  棘の刺入は生前に起こった可能性が高いと考えられる。

4)その他臓器等について
  画像診断検査により、明らかな骨折部位は認められなかった。
  死因に結びつくような、明らかな外傷は観察されなかった。
  消化管内に、明らかに死因につながる外来生の異物は認められなかった。
  外貌観察より削痩はなく、左右胸ひれ遠位端腹側は角化していた。
  子宮粘膜に死因に結びつかない2つの腫瘤が認められた。
  腸が高度に膨満していた(死後変化含む)。
  以下の臓器には著変を認めなかった。
  (心臓、左右肺、胃、十二指腸憩室、肝臓、左右腎臓、膀胱、左右副腎、卵巣)
  脳は融解しており、死後変性として矛盾しなかった。
  胃内に未消化の餌を確認した。
  妊娠所見はなかった。
  乳頭(左右の腋窩)の発達があった。
  死因に結びつかない、陳旧生の瘢痕(左尾びれ上部)があった。

死亡の原因
 ア)直接死因    腸の全層性裂傷を起因とする腹腔内の状態の悪化の可能性が極めて高いと考える
 イ)(ア)の原因  腹腔内への腸内容物の漏出
 ウ)(イ)の原因  腸管壁の裂創
 エ)(ウ)の原因  異物(鋸歯状突起多数の長さ約23cmのオグロオトメエイの尾棘)の刺入
死因の種類
 他の生物との接触に起因する死  可能性は極めて高い(剖検所見参照)
 船舶等との衝突死        可能性は極めて低いと考える (剖検所見参照)
 ロープ等への絡まりによる溺死  可能性は極めて低いと考える (剖検所見参照)
 異物飲み込みによる窒息死    可能性は極めて低いと考える (剖検所見参照)
 異物飲み込みによる腸閉塞    可能性は極めて低いと考える (剖検所見参照)
 餓死              可能性は極めて低いと考える (剖検所見参照)
 病死              他の検査が必要
 老衰              他の検査が必要
 妊娠              妊娠はしていない (剖検所見参照)
 化学物質による汚染       他の検査が必要
 標本採材            病理用採材29箇所、その他検査用冷凍採材15箇所

診断及び意見
 外因死、すなわちオグロオトメエイの尾棘の腹腔内刺入によって生じた腸管の全層性裂傷を起因とする
  腹腔内の状態の悪化による死亡が最も考えやすい。
 オグロオトメエイの尾棘が腹腔内に刺入し、腹腔内で腸管を損傷して全層性裂創(腸管穿孔)悪化を生じさせ、
 その結果として腸管内容物が腹腔内に散布され、腹腔内に充満し、腹腔内の状態の悪化をきたして死亡したと考えられる。
 なお今回の死因となったオグロオトメエイは沖縄近海に生息しているため、
  野生下においては偶発的に起こりうる事案であると考えられる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーここまでーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

このジュゴンは沖縄防衛局の調査で確認された3頭のジュゴンのうち、個体Bとして識別されたメスのジュゴンで、
個体Cの母親と推定されていた。

ちなみに、ジュゴンは雌雄とも牙を持つ動物だが、歯茎から牙が出るのは通常オスのみで、
メスは高齢の個体で稀に見られる程度である。

今回の個体もメスでありながら牙が確認できたことから(下の写真 丸で囲んだ部分)、この個体の体重・体長・牙の存在を、
IUCN・サイレニアスペシャリストグループの議長ヘレン・マーシュ博士に伝え、このジュゴンのおよその年齢を尋ねると、
「大変高齢で、30歳以上だと思う」との返事が帰ってきた。


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             2019年3月19日 確認された牙は、先端がわずかにすり減っていた。(今帰仁漁協にて)

確かにこの個体は、見るからに高齢であるように思えた。

ジュゴンの牙は毎年成長し、樹木の年輪のように一年ごとに層ができることから、この層を数えることによって
年齢を推定することができる。
過去にこの方法で牙を調べた結果、ジュゴンの最高齢は70歳以上であることが知られている。


190319_2_3.jpg
                                      2019年3月19日 今帰仁漁協にて

3月19日に公開されたこのジュゴンを確認したが、当日は腹側を下にしてパレットに乗せられていたため、
腹側を確認したのは、死骸をブルーシートに包む際に胴体を転がした一瞬であった。
そのため今回のオグロオトメエイの棘が刺入した痕跡を、居合わせた誰もが見落としていたと思われる。
その時に撮影した写真を拡大し改めて確かめると、確かに小さな刺し傷を確認することができた。
(上の写真 丸で囲んだ部分)

しかし、仮にその時この小さな刺し傷に気付いていたとしても、
それが彼女を死亡させた直接の原因につながる傷跡であったとは、誰も予想できなかったであろう。

今回の解剖で左腹壁の筋肉に到達した異物が、この長さ約23cmのオグロオトメエイの棘である。(下の写真)


環境省資料_1

検案書には、「オグロオトメエイは沖縄近海に生息しているため、野生下においては偶発的に起こりうる事案である
と考えられる」とあり、同種のエイは現在美ら海水族館でも飼育展示されている。

今回のジュゴンの死亡要因についてヘレン・マーシュ博士に伝えると、
オーストラリアでもエイの棘によるジュゴンの死亡例があるとのことだった。

ジュゴンの餌場は海草藻場であるが、エイの仲間には貝類や甲殻類などの底生生物を餌とする種類も多く、
それぞれの餌場が重なり合っている。


121201マダラトビエイ_1
                                  ジュゴンの採餌場で餌をとるマダラトビエイ

実際にジュゴンの食み跡を調査していると、食み跡の脇に広範囲に砂が掘り返されたエイの食事跡を確認することが
しばしばある。また、実際に食み跡の調査中にジュゴンの食み跡の上を泳ぎながら繰り返し餌を食べるマダラトビエイを
目撃しており(上の写真)、毎日海草藻場で食事をとるジュゴンが、同じく海草藻場で食事をとるエイに遭遇する頻度が
高いことは、容易に想像できる。

個体Bは食事中に運悪くオグロオトメエイと交差し、鋭利な毒棘の一撃を受けたのかもしれない。

今回死亡が確認された個体Bは、これまで行われてきた調査で、屋我地島と古宇利島の東の海域で主に確認されていた。


沖防1906資料_1

沖縄防衛局は、ジュゴンの生息と移動を監視視する目的で、水中録音装置を沖縄島の北部の海域に設置し、
ジュゴンの鳴音などを記録してきた。(上の図の黒丸が鳴音観測地点)
そのうち個体Bが確認されていた古宇利島・屋我地島海域では、Y-1、Y-2、Y-3、Y-4、Y-5の合計5カ所に、
水中録音装置を設置していた。

沖縄防衛局が発表したジュゴンの鳴音記録によると(下の表)、個体Bの死骸が確認された日の4日前にあたる3月14日に、
古宇利島・屋我地島の東の海域に設置されていた水中録音装置(Y-3、Y-4)に、23回のジュゴンの鳴音が記録されていた
(表の赤い部分)。

過去の鳴音記録の回数は、多い時でも一日に6回程度だったことと比較すると、
この日はその4倍の数の鳴音が記録されたことになり、
この時鳴音を発したジュゴンが、ただならぬ状況にあったことをうかがわせる。


沖防1906資料_3

当日はこの海域で航空機調査による個体の確認はなく、どの個体がこの鳴音を発したかは不明であるが、
近年この海域で最も高い頻度で確認されていたジュゴンが個体Bだったことからすると、
鳴音の主は個体Bであった可能性が高いと考えられる。

推測の域は出ないが、3月14日の午前8:50頃、個体Bはオグロオトメエイの毒棘の一撃を受けたのかもしれない。

棘の側面は写真の通り鋭利な鋸刃状になっており、一度刺さったら抜けないばかりか、
棘の後ろや横から圧力が加われば、さらに前方に進む構造になっている。

個体Bは刺さった棘を外そうと海底に患部をこすりつけたかもしれない。しかし、その度に棘はさらに体内へと進んだだろう。
激痛に苦しみ、もがけばもがくほど棘はさらに奥へ奥へと進み、検案書の通り腸の蠕動運動も加わって棘は体内を約60cm移動を続け、
その間に小腸を傷つけ、小腸から漏出した内容物が体内を汚染し、症状はさらに悪化し、その結果死に至ったのかもしれない。

彼女が激痛で苦しんだ挙句の果てに死んだことを思うと、本当に耐えきれない。
何か助ける手段がなかったのかと、非常に悔やまれる。

極めて数の少ない日本のジュゴンにあって、今回成獣のメス1頭を失ったことは、
日本のジュゴン個体群の保全にとって、非常に大きな痛手である。

しかし、悲しみに浸っている暇はない。
何故ならば、沖縄防衛局が調査した海域の外でも、少数ではあるが近年ジュゴンが確認されており、
彼らは沖縄の海で、今も懸命に生き延びているからだ。

私たちは今、沖縄ジュゴンを保護するための有効な手段を導き出し、
彼らと彼らが棲む海を、後世に残さなければならないと、私は切に思う。



近年ジュゴンが目撃された主な場所は以下の通りである。

2013年6月     多良間島    ジュゴン1頭 ( 環境省 2019 )
2913年−2014年  西表島     ジュゴン1頭 ( 環境省 2019 )
2017年7月     渡名喜島    ジュゴン1頭 ( 沖縄県 2019 )
2017年9月     本部町備瀬   ジュゴン1頭 ( 沖縄県 2018 )
2018年8月     南城市志喜屋  ジュゴン1頭 ( 沖縄県 2019 )
2018年8月     波照間島    ジュゴン2頭 ( 環境省 2019 )

環境省 2019 http://www.env.go.jp/nature/H30_MOE_%20dugong_report.pdf
沖縄県 2018 https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/documents/h29-2kentouiinnkai_2.pdf
沖縄県 2019 https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/documents/h30kentou_iinkai_siryou1.pdf







  1. 2019/08/20(火) 16:04:00|
  2. ジュゴンの海

沖縄のジュゴン 存亡の危機  −ジュゴンを守る緊急院内集会と政府交渉−

190417院内集会4

去る4月16日、北限のジュゴン調査チーム・ザン、ジュゴンネットワーク沖縄、日本自然保護協会共催の、
ジュゴンを守る緊急院内集会と政府交渉を衆議院第二議員会館で行った。

今回の行動は、2015年から行方不明となったジュゴン個体Cに続き、
2018年秋には名護市東海岸で20年間続いたジュゴンの食み跡の確認が途絶え、
その海域を餌場としていたと考えられる個体Aが行方不明となり、
加えて、先月3月18日に個体Bが死体となって確認され、
日本のジュゴンの危機的状況がさらに増したとと考えたからである。


190417院内集会1

院内集会では、減少する沖縄のジュゴンの歴史やジュゴンのストランディング記録につて解説し、
絶滅回避には、混獲防止や生息地を守る法律の適用が不可欠であること、
また、保護区などに関する法令について説明した。




190417院内集会3

院内集会に続いて環境省と防衛省と面談し、予め準備した質問に対して回答を頂き、
私は現在進められている辺野古新基地建設工事が、2頭のジュゴンを彼らの生息域から追い出したことを中心に追求した。

今回、環境省、防衛省ともお役所対応という姿勢で終始したが、重要な指摘はできたと考えている。

ジュゴンの状況と、その指摘内容は次の通りである。


ジュゴン確認状況_1

2007年から辺野古新基地建設に伴う環境影響評価の調査が沖縄島の主に中北部海域で実施され、
3頭のジュゴンが確認された(沖縄防衛局2009)。

この3頭は個体A、B、Cと識別され、個体Aは名護市東海岸で確認されたオス、個体B、Cは母子と考えられ、
古宇利島沖を拠点に東海岸まで移動していた。その後個体Cは2009年頃から単独で行動するようになり、
親離れしたと考えられ(沖縄防衛局2011)、辺野古に隣接する大浦湾にしばしば姿を見せた。


大浦湾食み跡ポイント

● 個体Cの生息範囲の変化

同じ時期(2009〜2015年)大浦湾では沖縄防衛局の調査で49本、私たち市民グループの調査で238本(累計)の
ジュゴンの食み跡が確認された(細川2018)。大浦湾で確認された食み跡について沖縄防衛局は評価書(6-16-172)
の中で「個体Cによるものと考えられます」と、個体Cが大浦湾を餌場として利用していたことを認めていた。

しかし、2014年8月から沖縄防衛局は、辺野古・大浦湾に基地建設のための海上作業に着手し、多数の警戒船を航行させ、
数十トン規模のコンクリートブロックを投入し、立入制限を示すブイを設置し、ボーリング調査を実施した。
その後2015年4月を最後に大浦湾では食み跡の確認は無くなり、個体Cも同年6月に古宇利島沖で確認されたのを最後に
行方不明なった。


H30no19Siryo05-11-11.jpg

沖縄防衛局は平成29年度事後調査報告書の中で工事が個体Cの生息域に与えた影響について次のように記している。
「個体Cは古宇利島沖から辺野古沖までの間を行き来するなど非常に広範囲で確認されているが、事業実施区域は
主たる生息域とは言えないと考えていることから、工事が個体Cの主たる生息域に影響したとは考えていない。」

しかし、同局は個体Cが親離れをする前の行動範囲を含め「主たる生息域」としていたのである。少なくとも親離れをした
2009年5月から大浦湾で工事が着手された翌月の2014年9月までの5年4ヶ月間は、確認数17回のうちの15回、率にして
およそ88.2%を大浦湾・嘉陽海域で確認されており、この5年4ヶ月間は、個体Cが確認された期間の中で最も長期に渡り
確認場所が安定していた時期であった。


個体C生息場所の変遷1

また、沖縄防衛局は「〜餌場の利用状況を踏まえると、〜事業実施区域は主たる生息域とは言えない」と示している点も
事業者に都合の良い希望的観測を述べているに過ぎない。

同局は評価書の中で「平成21年度には、大浦湾西部の辺野古地区及び大浦湾奥部において、個体Cによるものと考えられる
食み跡が確認されました。」と記している通り、個体Cが辺野古・大浦湾を餌場として利用していたことは客観的な事実である。

一方で「〜嘉陽地区においても食跡数が増加しており、個体Cによるものであると推測されます。」と記しているが、
同局が行なっている調査方法では、食み跡の正確な増減は不明であるため、食み跡の本数を根拠に個体Cが嘉陽地先で
採餌していたと推測するには無理がある。

何故ならば、ジュゴンの食み跡の長さは、最大で20倍以上の差異があり、また一箇所を集中的に摂餌し、
本数が判別できない密集状態の食み跡も存在するからだ。食み跡の増減を示す目的で調査するのであれば、
食み跡は本数ではなく、密集域を含む面積を記録し、より定量的なデータを取る必要があると私は考える。

個体Cが親離れした後に、その姿を確認した場所、その姿を確認した時期、
また食み跡を確認した場所、食み跡が確認された時期などの調査データを定量的に判断すれば、
個体Cの主たる生息域は大浦湾・嘉陽海域であったとの結論が導き出され、同じ時期の工事の内容と照らし合わせれば、
工事の影響によって個体Cの生息範囲に変化が生じたと考えるのが自然である

辺野古新基地建設事業では、工事による環境への影響を監視する目的で環境監視等委員会が設置されているが、
個体Cが親離れする前の行動範囲を含め「主たる生息域」としている点や、定性的な食み跡の記録でその増減を語るなど、
不適切な調査や判断がなされた状況を見ると、同委員会に適切な専門家が配置されているか疑わしいと言わざるを得ない。


個体Aの生息範囲

● 個体Aの生息範囲の変化

個体Aは個体識別された2004年11月には既に成獣だったことや、私たちが嘉陽で調査を開始した1998年には、
同海域では既に食み跡が確認されていたことから、定着性が強い個体Aが嘉陽地先を拠点に生息していたのは、
少なくとも20年前の1998年以前からと推測される。

沖縄防衛局はアセス準備書の中で、個体Aは「環境省による平成15年11月以降の調査においても同海域にて確認されており、
嘉陽沖を中心とした安部崎からバン崎にかけての沖合5kmの限られた範囲内に定着している」と定着性を強調し、
それを裏付けるように、環境省は7回、沖縄防衛局は204回、個体Aを嘉陽沖の限られた範囲内で確認していた。

ところが、2015年(平成27年)頃から、この定着性が強く限られた範囲でのみ確認されていた個体Aの生息範囲に変化が現れた。
下の図は沖縄防衛局が公表した個体Aの確認位置を示した図を改変したものだが、シュワブ(H26)水域生物等調査報告書(左側)
の個体Aの行動範囲を見ると、2015年に実施された調査では同個体が大浦湾の湾口に姿を見せなくなったことが示されていた。

この平成26年度に同局は、大浦湾に多数の警戒船を航行させ、数10トン規模のコンクリートブロックを投入し、
立ち入り制限を示すブイを設置し、ボーリング調査を実施したのである。その結果それまで静寂だった大浦湾は一変し、
個体Cは大浦湾から姿を消すわけだが、個体Aもまた騒々しい大浦湾には近づくことができなくなったことが、
この図から読み取ることができる。

また、シュワブ(H27)水域生物等調査報告書(右側)の個体Aの行動範囲を見ると、2016年1月から2018年1月に実施された
調査では、それまで確認がなかった東南の海域まで行動範囲が広がり、行動の軌跡が分散していたことが示されていた。

沖縄防衛局は、2019年1月に実施した第8回環境監視等委員会・資料4の中で、この時期に辺野古・大浦湾で行われていた
工事について、「ジュゴンに影響を及ぼす可能性が考えられる水中音や振動を発する工事は平成29年(2017年)11月〜
平成30年(2018)8月の期間がピークであったものと推察される」と記している。つまり、ジュゴンに影響を及ぼす可能性が
考えられる水中音や振動を発する工事が行われた時期に、個体Aの生息範囲に変化が現れていたのである。


20181107 防衛省提出資料 シュワブ(H27) のコピー

過去に記録がない南東のエリアまで行動範囲を広げた背景は、個体Aが騒音と振動の発生源であった辺野古崎から
できるだけ逃れようと行動したものと私は推測する。
個体Cのように別の海域に避難しなかったのは、個体Aの行動の特徴である「定着性」が強かったためではないだろうか。
同海域に長年暮らし定着性の強い個体Aは、日中は騒々しい辺野古崎からできるだけ遠ざかり、夜間に工事の影響がおさまると、
彼の餌場であった嘉陽地先に戻り採餌する行動を繰り返していたのではないだろうか。
私はこの図から、個体Aの行動の意味をこのように解釈した。

私の解釈は推測の域を出ないが、個体Aの生息範囲が変化した時期に、ジュゴンに影響を及ぼす可能性が考えられる
水中音や振動を発する工事が行われたことは事実である。

その後、個体Aは2018年9月に確認されたのを最後に行方不明となり、同個体の新しい食み跡も10月以降確認されなくなった。

沖縄防衛局は個体Aが行方不明となった事態について、騒音や振動がピークだった時期においても、
その姿が確認されていたことを根拠に、工事が与えた影響について否定した。確かに騒音や振動がピークだった
時期においても、個体Aの姿は確認されていたが、その確認場所は辺野古崎からより離れた場所に移動していたのである。
また、工事による騒音や振動がピークだった時期に、個体Aのストレスの限界点が訪れるとは限らず、
個体Aが感じていたストレスの限界を迎えた時が、2018年の10月頃だったのだと推察される。


●  防衛省、環境省交渉
このように、沖縄防衛局は辺野古新基地建設工事によって、個体Cに続いて個体Aの生息範囲にも変化を与え、
その後2頭のジュゴンは行方不明となった。

辺野古アセスの環境保全図書では、「工事の実施後は、ジュゴンのその生息範囲に変化が見られないか監視し、
変化が見られた場合は工事との関連性を検討し、工事による影響と判断された場合は速やかに施工方法の見直し等を
行うなどの対策を講じます」と記載されている。説明の通り工事による影響は明らかであると考えられることから、
沖縄防衛局は個体A及び個体Cが元の生息範囲に戻るための対策を講じる義務があり、不実施は違法であると私は考えた。

そこで今回3団体による政府交渉を行い、その中で防衛省と環境省に対して当該事業がジュゴンに与えた影響について、
その認識について質問した。

これに対して防衛省は、ジュゴンへの影響については環境監視等委員会から助言を仰ぎ、適切に対処しているとの
一点張りであった。工事による影響が科学的に検証されてこなかったことは、個体Aや個体Cが彼らの生息範囲から追い出され、
行方不明となった結果を見れば明らかであり、環境監視等委員会が機能不全に陥っていることを示しているが、沖縄防衛局は
その環境監視等委員会の名を借りて、辺野古基地建設工事を進めているのだ。ちなみにこの環境監視等委員会の委員には、
本事業の建設工事や委託業務を受注する業者から、過去に寄付を受けていた人物が含まれている。そこで今回の交渉では、
同委員会とは別に第三者の専門家による検証を求めたが、これも拒否された。

一方、3月に死亡が確認された個体Bの死因との関連を調べるための、工事に関連する船舶の航行ルート記録の開示など、
約束を取り付けることができたものもあった。

環境省に対しても、当該事業がジュゴンに与えた影響について、その認識を質問したが、この事案が法律上事業者主体で
必要な対策を行うものであることを理由に、「我関せず」というスタンスをとった。


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環境省は今回面談した4月16日に合わせて、自らに向けられた批判の矛先を逸らす意図があったのか、
ジュゴンに関する発表を行い、昨年8月に親子2頭のジュゴンが波照間島沖で目撃されたことなどの情報を発表した。

今回の環境省の発表は、ジュゴンはまだまだ絶滅しないことを告げ、私たちに希望を与えてくれた。
しかし、環境省は2004年の時点でジュゴンが種の保存法の国内希少野生動植物種選定要件に該当すると認めながら、
ジュゴンの存亡に関わる混獲防止や生息地を守るための手立てを行わないまま、15年が過ぎたことも事実である。

車座会議やジュゴンレスキューなど、ジュゴンと地域社会との共生に関する取り組みについては、一定の評価はしたい。
しかし、ジュゴンレスキューはジュゴンが生きたまま混獲された場合には効果が期待できるが、
そもそも、ジュゴンの減少要因である混獲死亡事故を防ぐ効果は無い。

昨年8月に波照間島で親子2頭のジュゴンが確認されたことは、「まさに今、抜本的な保護対策を取らなければ、
私たちジュゴンは絶滅する」とのメッセージとして、環境省には受け止めて頂きたい。

沖縄防衛局がジュゴンに対して行ってきたことは「いじめ」以外の何ものでもない。
一般的にいじめを傍観するものは「同罪」と見なされるが、この状況を傍観し続ける環境省は「同罪」以上に
罪が重いと私は言いたい。当該事業が環境影響評価法改正前の事案であるため、法的権限が及ばないとはいえ、
これらのジュゴンは沖縄防衛局が確認する以前から環境省が確認していた個体であり、
日本のジュゴンの危機的状況を最も把握していた役所だからである。

環境省は、ここで動かなければあなたたちの傍観の姿勢によって「日本のジュゴンは絶滅した」という、
日本の環境行政の歴史において、大きな汚点を残すことは間違い無いだろう。





  1. 2019/04/24(水) 11:33:56|
  2. ジュゴンの海
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ジュゴン 個体Bの死

3月18日夕方、新聞記者から連絡が入り、今帰仁村でジュゴンの死体が漂着したので写真を見てもらいたいと告げられた。
ジュゴンのストランディングの情報は過去に何度も受けたが、現場で死体を確認するとその多くはコマッコウやオガワコマッコウなどの
吻が無い小型鯨類との誤認であることがほとんどだったが、記者の話しぶりから今回は誤認の可能性は低そうだ。胸が締め付けられる。

早速メールを開くと、そこに写し出された死体はジュゴンに間違いなかった。

今帰仁村の沖合では沖縄防衛局の調査で個体Bと呼ばれるメスの成獣が確認されていた。
早速アセス評価書の個体の特徴をとらえた写真と照合すると、左体側の腰のあたりに「へ」の字型の凹みが確認でき、個体Bの特徴と合致した。
死体は個体Bにほぼ間違いないことを記者に伝えた。

個体Bはアセスの調査では2008年9月20日に確認され、その後個体Cと呼ばれる幼獣と行動を共にしていたことから、個体Cの母親と考えられた。
(ジュゴンのオスは子育てに参加しないため、親子が確認された場合、その親はほぼメスと考えられる。)
アセスの調査が実施される前の2001年から環境省はジュゴンと藻場の広域的調査を実施し、そのうち2005年2月25日に古宇利島地先において
親子と思われる2頭のジュゴンを確認しており、個体識別はされていないものの発見された時の状況から判断すると、この親子は個体Bと個体Cと考えられた。

沖縄防衛局が沖縄島周辺で確認したジュゴンは個体A、B、Cの3頭で、そのうち個体A、Cは辺野古基地建設着工後に行方不明となり、
生存が確認されていた唯一のジュゴンが個体Bだったが、今回その個体Bが死んだのだ。

琉球新報が沖縄防衛局に確認したところによると、個体Bを最後に確認したのは今年の2月12日であったことから、
個体Bの確認記録は14年間で終えることとなった。


190319_11.jpg


翌日、早速運天漁港へジュゴンを確認しに行った。すると既に沢山の人が集まっていた。
ジュゴンの死体は腐敗が進まぬよう氷と一緒にブルーシートに包まれ、美ら海水族館の職員の到着を待っていた。

私はこの20数年間ジュゴン保護に携わり、ジュゴン一頭の命の重さを理解しているつもりだ。例えそれが死亡したジュゴンであってもである。
日本のジュゴンは、文化財保護法、水産資源保護法、鳥獣保護法で保護指定されているため、死体の扱いも法令に従う必要があり、
今回のジュゴンの引き取り先を決めることが最優先の課題であることも理解していた。

個体Bの死を無駄にしないためにも、ここは是非地元の今帰仁村の資料館に骨格標本を残し、
目の前の海にジュゴンが棲んでいることを特に地元の人たちに知っていただき、
これからもずっと、ジュゴンの棲める海を残してもらうよう教育普及に資することが最善策だと考えた。

そこで現場に居合わせていた今帰仁村歴史文化センターの職員と文化財係の担当者にそのことを話すと、早速村長に相談することとなった。
幸いにもこの海域の海中不発弾処理問題で村長とも面識があり、話は順調に進んだ。
地元の今帰仁村に引き取る意思が確認できたが、死体は解剖されるまでの間冷凍施設で保管する必要があり、
その費用負担の問題を解決する必要もあった。

ところが、その問題も直ぐに解決できることが分かった。
村長の話によると昨年末に村所有の冷凍施設が完成したばかりで、その施設が活用できるということだった。
トップダウンで物事が決まると話が早い。あとは美ら海水族館との調整である。

日本のジュゴンはその数が極めて少なく、そのため死体を解剖するる機会も少ない。
今回その貴重な命を失ったわけだが、その死を無駄にしないためにも、死体は今後のジュゴン保護に資するために
開かれた形で広く活用されるべきだと考えていた。

美ら海水族館のスタッフが到着したところでそのことを早速伝えると、知人でもある彼も同じ考えであることが分かり、
骨格標本を今帰仁村が所有することも直ぐに了解しいただいた。また美ら海水族館には後の事務手続きも快く引き受けていただいた。


190319_2.jpg


ここでやっと、個体Bを確認する時が来た。ブルシートが剥がされると、氷に挟まれたジュゴンが現れた。
体は大きく、体重は計測されなかったが、印象としては2000年に瀬底島沖で死体漂流していた個体と同じくらいの
400kg程度はあるのではないかと思われた。

鼻や頭部、脇に出血が見られ、複数箇所で皮膚の損傷が確認されたが、発見された場所が護岸付近であったことから
それらの傷は死後漂流中に岩などと接触して出来たものと思われた。

背中に無数の傷があったが、普段生活する中でサンゴや岩と接触して付いた傷と思われ、中にはおよそ7cm程度の幅で
平行に伸びる2本の傷も確認され、オスのジュゴンの牙による引っ掻き傷と思われた。

肝心の「へ」の字に凹んだ痕は腹側まで達し、その凹みは甚だしく、過去に大きな怪我を負った時の古傷の可能性も考えられた。
なお死因に繋がるような外傷は現場では確認出来なかった。今回の死亡は病気や寿命などの自然死の可能性もある。
また、個体Bが確認されていた海域では網漁業も行われていることから、それらによる事故死の可能性も考えられる。

今後解剖が行われる予定だが、現場で作業に当たった美ら海水族館の獣医師からは、海生哺乳類の場合は、
解剖したからといって必ずしも死因が特定出来る訳ではないと告げられた。

死因を特定することは、絶滅が危惧される日本産ジュゴンの絶滅リスクを下げるためには非常に重要なことであり、
死亡原因が解明されることを願っている。


190319_33.jpg


沖縄のジュゴンは明治から大正時代に行われた漁によって個体数が激減した。
そのため、1955年の琉球政府時代に天然記念物に指定され、1972年の本土復帰に伴い日本の天然記念物に指定されたが、
意図的な捕獲を規制するばかりで、日本のジュゴン個体群を保全するための積極的な対策は一切取られないまま現在に至った。

また環境省はジュゴンを種の保存法の国内希少野生動植物種への指定を見据えて、2001年から2005年にかけて
ジュゴンと藻場の広域的調査を実施し、調査の結果ジュゴンは沖縄本島の周辺海域での確認頭数が極めて少なかったことから、
2004年衆議院第159回国会において、種の保存法の国内希少野生動植物種選定要件に該当すると認め、
2011年には地元の名護市議会もジュゴンを国内希少野生動植物種に選定するよう環境大臣及び法務大臣に意見書を提出したが、
同省は国内希少野生動植物種への指定を行わず、人間活動からジュゴン及び生息地を守る手立てを行わないまま現在に至った。

環境省は同じ国会答弁の中で「選定するためには〜関係者の理解を得る必要がある」と語っているが、
前述の通り地元名護市は環境省に対してむしろ選定を求めている立場であることから、
選定を阻害しているのは日本政府と米国国防総省であると考えるのは私だけだろうか。


190319_44.jpg


今回のジュゴンの死亡について、様々なメディアから辺野古基地建設工事との関係にについて意見を求められた。
そこで3頭のジュゴンと辺野古基地建設工事との関係について整理してみた。

個体C
沖縄防衛局が確認した3頭のジュゴンのうち個体Cは大浦湾で度々確認されていた。
同じ時期に同湾ではジュゴンの食み跡が多数確認されたことから(沖縄防衛局の調査で49本、市民グループの調査で238本(累計))
沖縄防衛局は評価書の中で「個体Cによるものと考えられる」と認めていたが、2014年その個体Cの餌場を埋め立てる基地建設工事に着手した。
同局は大浦湾に多数の警戒船を航行させ、トンブロックを投入し、立ち入り制限を示すブイを設置し、ボーリング調査を実施し、護岸工事に着手したのだ。
その結果、大浦湾に度々姿を見せていた個体Cはその後大浦湾に姿を見せなくなり、翌2015年から消息不明となった。
この通り基地建設工事が個体Cの生息範囲に影響を与えたことは明らかである。

個体A
アセスの調査が始まる前の2003年11月から環境省の調査で確認されていた個体Aは、これまでに100回を超える確認があるが、
その生息範囲は狭く、大浦湾の湾口の東の海域から東に約8km、南に約3.5kmの外で確認されたことがなく、沖縄防衛局も定着性を強調していた。
しかし、2015年から湾口に姿を見せる頻度が減るとともに、確認される場所が辺野古崎から離れるように徐々に東南へ拡大し、
2017年年度にはかつて記録の無い東南海域まで達するようになった。
前述の通り2015年は辺野古基地建設工事に着手した時期と重なり、2017年年度は本格的な護岸工事が着手され、
沖縄防衛局自身が捨て石投入などもっとも大きな騒音と振動が発生したとする時期と重なる。
個体Aが辺野古崎から離れるよに東南に生息範囲を移動していたのは、基地建設工事の騒音や振動の影響を避けるための行動と考えられるが、
影響を受け続けていた個体Aは、2018年10月以降安住の地であったはずの海域から姿を消した。
この通り基地建設工事が個体Aの生息範囲に影響を与えたことも明らかである。

個体B
沖縄防衛局の調査では個体Bは主に古宇利島、屋我地島地先で確認されていたが、
2008年6月9日には辺戸岬から国頭村の東海岸まで移動していたことも確認されていた。
個体Bは辺野古基地建設工事の実施海域付近で確認されたことはないが、現在埋め立てに使われる土砂が名護市の西海岸から運搬されており、
その海上ルートと個体Bの生息海域がバッティングしているかは不明である。
沖縄防衛局が調査を行った時間は限られており、同局は個体Bの行動の極一部を把握しているに過ぎないからである。


今後同個体の解剖が行われたとしても、死亡原因の解明には至らない可能性も高い。
しかし、極めて数の少ない日本産ジュゴンのうち1頭が死亡し、加えて確認されていた残り2頭が消息不明となったことは、
これまでの保護対策が不十分であったことを如実に示している。


以下に記載したのは、3月5日にジュゴンネットワーク沖縄、北限のジュゴン調査チーム・ザン、日本自然保護協会が共同で行った
「沖縄のジュゴン個体群の存続の危機を訴える緊急声明」の抜粋である。最後に是非読んでいただきたい。

1. 辺野古環境アセスメントの環境保全図書では「工事の実施後は、ジュゴンの生息範囲に変化が見られないか監視し、
  変化が見られた場合は工事との関連性を検討し、工事による影響と判断された場合は
  速やかに施工方法の見直し等を行なうなどの対策を講じます」と記載されている。
  沖縄防衛局は個体A及び個体Cが確認されなくなった要因について工事の影響はないとしているが、
  前述の通り工事の影響は明らかであることから、沖縄防衛局は速やかに工事を中止すること。
  また、環境省は沖縄防衛局に対して速やかに工事を中止するよう指導すること。

2. 沖縄防衛局は、本工事によるジュゴンへの影響やジュゴンの調査について、
  工事や調査に携わる業者から過去に寄付を受けていた委員らで構成される環境監視等委員会ではなく、
  第三者の専門家による検証を行い、透明性を確保し検証結果を公表すること。

3. 環境省及び沖縄防衛局は、個体A及び個体Cが辺野古新基地建設工事着手後に不明となったことから、
  これらのジュゴンの消息について調べるための沖縄島及び周辺離島を含む広域調査を緊急に実施すること。

4. 環境省は、速やかにジュゴンを国内希少野生動植物種に選定すること。

5. 沖縄県は、以前から指摘されていた海中不発弾の処理に関する検討会について、
  処理に関わる関係機関及び海生哺乳類やサンゴ礁保全などの研究者、また、漁業者や観光業者、
  そして私たち市民グループを交えた形で実施すること。


最後まで長文を読んでいただき、ありがとうございます。
日本のジュゴンのために、みなさんの力をぜひお貸しください。



追記
・ 2019年3月25日 
発見日時:2019年3月18日 17時過ぎ
発見場所:沖縄県国頭郡今帰仁村運天 運天漁港北200mの護岸付近
発見者 :漁師
個体情報:体長289cm メス(成獣)
     (左体側の腰のあたりに「へ」の字に凹んだ特徴があったことから、沖縄防衛局が確認していた個体Bと考えられる)




  1. 2019/03/23(土) 15:18:48|
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ジュゴンと海草藻場に関する勉強会

190126本部漁協ジュゴン勉強会1

1月26日、沖縄県が進めるジュゴン保護対策事業の一環として実施されたジュゴンと海草藻場に関する勉強会に参加しました。






190126本部漁協ジュゴン勉強会2

今回は2017年9月に本部町の海洋博沖で漁業者によってジュゴンが目撃されたこともあり、地元の本部漁協での開催となりました。
漁業関係者の皆さんには、ジュゴンレスキューの取り組みが始まった経緯や、
付近にジュゴンが生息していることを意識し操業して頂くことなどをお願いしました。




190208羽地屋我地ジュゴン勉強会1

また昨日2月8日には、屋我地島の済井出公民館にて羽地・屋我地海域で漁業等に従事される人たちを対象とした
ジュゴンと海草藻場に関する勉強会が開かれました。

古宇利島・屋我地島海域は名護市東海岸と同様に現在日本でジュゴンの生息が確認される数少ない海域の一つで、
日本産ジュゴン個体群を維持する上で特に重要な海域です。



190208羽地屋我地ジュゴン勉強会2

この海域にはジュゴンの餌場である海草藻場が良好な状態で存在する一方で、モズク養殖や定置網漁、
また近年ではクロマグロ養殖なども行われ、ジュゴンと漁業との共存が課題となっている場所でもあります。
そのため会場の漁業者からはジュゴンが混獲された場合魚の出荷に影響が出るが、損害はどうなるかと言った質問が出されました。
それに対して主催者側からは、「漁業は豊かな自然の恵を享受して成り立っている生業であり、
ジュゴンもその豊かな自然の一部であることを理解していただきたい。
今の段階では補償は行う仕組みは整っていないが是非協力していただきたい。」と返答し、
質問した漁業者からはそれ以上の追求はありませんでした。

190208羽地屋我地ジュゴン勉強会3

当初参加者は少ないと予想されていた今回の勉強会でしたが、当日は海が時化たこともあり、
想定を超えた人数の参加者に集まっていただき、ジュゴンや食み跡の新たな情報も収集でき、収穫の多い勉強会でした。



  1. 2019/02/09(土) 11:27:43|
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名護に住み、身近な自然のすばらしさに日々感謝しています。宝物は意外と自分の足下にあるものです。

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